コンコン カチャリ ノックの後、返事もしていないのに扉が開く。 まぁそんなことをするのは二人だけだから、別に構いはしないのだが。 そもそも、この部屋を訪れる人間は二人以外にほぼ皆無と行っても過言ではない。 案の定、二人の内の一人――――緋澄が、手に数冊の本を抱えて入ってきた。 「紗夜、これ輝夜から。新しく入ったやつだって」 差し出されたそれを受け取って、ざっと眼を通し内容を確認した紗夜は首を傾げ る。 「まだ2話までしかないのに?珍しい」 いつも書架に並べる時は、少なくとも5話以上のものなのだが。 「あ、それね。紗夜の新しい担当だって」 「は?」 「紗夜、前の委譲してから今何も担当して無いでしょ?」 「まぁそうだけど・・・・」 紗夜が前に担当していたのは、『遺伝子レベルにおける二つの一族の確執物語』。 一時期かなり内容がごった返していたのだが、最近落ち着いてきたので、他の者 に回したのだ。 紗夜以外の司書は、滅多に図書館にいることはない。 そもそも司書の仕事が物語の監視なのだから、皆自分の担当しているいくつかの 物語を飛び回っているのが常だ。 なので、紗夜が今、一つも担当を持っていないのは、ある意味特殊な状況といえ た。 「だとしても、まだ2話の段階で私の専任にしなくても」 「僕もそう言ったんだけど。・・・輝夜が言うには、かなり大きくなりそうなん だよね、それ」 「付随世界が多い・・・・と言うこと?」 「輝夜の見立てでは50以上らしいけど」 もしかしたら100を越えるかもと言っていた事は黙っておく。 現に今50といった時点でも、紗夜はあからさまに嫌そうに表情を歪めた。 それもそのはずで、50という数字は緋澄にとってもかなりの量だ。 付随世界は、元の世界に比べれば短く小さいものが多いとはいえ、量が増えれば それだけ大変で。 「・・・・・・嫌がらせか」 紗夜はこめかみを引きつらせていた。 「そんなわけないだろう」 緋澄の伝えてきた、紗夜の「嫌がらせ」発言にいささか不機嫌な面持ちを見せた 輝夜に、「だよねぇ」と緋澄も頷く。 「輝夜のカンってあんまり外れないもんね」 「あんまりってなんだ」 「絶対なんて言い切れるの?」 「そんなわけ無いだろう」 「でしょ?」 「・・・・・・・・・・・・・・大体」 「あ、話し逸らした」 「・・・・・・・・・」 苦虫を噛み潰したような顔をして睨んできた輝夜に、緋澄がくすくすと笑う。 「――――っ大体!既に5つも付随世界が発生してるんだ。でかくならないわけが 無い」 よもすると、何百年ぶりかの大事にすらなりかねない。 ピン と弾かれた書類に緋澄が目をやると、物語の題名らしき語が白い紙面に並ん でいた。 恐らくこれが、既に発生しているという世界なのだろう。 「――――・・・やっぱり、紗夜じゃないと難しいよね・・・・」 「Sランクだからな。鏡月や琴音( ならともかく、他のヤツらじゃ経験不足は否めな い。兼任なんてもっての外だ」 物語には4つのランク付けがされている。 Aランクの物語は、一つを一人の司書が専任する。 Bランクは3〜5つを一人の司書が兼任しているのが普通だ。 Cランクともなると、司書がつくことはほとんど無い。Cランクの物語は、館長であ る輝夜が纏めて管理しているからだ。 ちなみに、全ての物語にランク付けをしているのも輝夜である。 そんな中でSクラスの物語は、AからCランクの物語をいくつも同時に兼任してい るようなものなのだから、任せられる司書などそうそういないわけで。 「―――――・・・・僕がやろうか・・・?」 ぽつりと呟いた緋澄を、輝夜が少し驚いたように見やる。 「だってCランクの管理なんて、ほとんど紗夜がしてるじゃないか。おかげで僕ら は館内の仕事に専念できてるんだけどさ」 副館長がやっちゃいけないってわけじゃないし。 緋澄が窺うように輝夜を見るが、輝夜は少し思案した後、首を振った。 「いや。今あいつに任せてる仕事を戻して、こっちをやってもらう」 「・・・・僕、頼りない?」 悲しげに眉を下げた緋澄の髪を、宥めるように撫でる。 「そうじゃない。お前の実力は知ってるよ。けど―――・・・・」 「けど?」 「・・・・多分。今回の物語、俺たちがやると余計に事態をややこしくしそうだ」 「は?」 意味がわからないと首を傾げた緋澄が、その物語に自分達そっくりの登場人物が いることを知るのは、このすぐ後の事。 外見はそっくりだが中身の違う彼等に興味を引かれたらしい二人が、たびたび介 入しては紗夜に小言を言われるようになるのは、もう少し先の事。 Back
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