部屋の扉を開けると、正面にバルコニーへと出られる大窓が目に入る。
部屋にはベッドと作り付けの本棚。机に、テーブルと椅子が二脚。
「相変わらず物のない部屋」
トキが呟くが、ツキハは知らんふりをした。
テーブルの上に置いてある籠から林檎を二つ取ると、一つをトキへと投げ渡し、
もう一つに齧り付く。
林檎はトキの好物で、与えておけば大抵大人しい。現に今も黙って黙々と食べて
いる。


「さぁー・・て」
柔らかい果肉と、甘酸っぱい蜜が口の中へと広がるのを感じながら、ツキハは隙
間だらけの本棚の前に立つと、一冊の本を取り出した。
そのまま机へと向かい、スタンドをつけると本を捲る。
「・・・・・トキ、窓開けて」
顔は本にやったままツキハが言うと、いつの間にか二個目の林檎に取り掛かって
いたトキが、フィ…と飛んで窓を半分開けた。
ふわりと、心地よい風が室内へと流れ込む。


「何?」
何をしているのかと手元を覗き込むと、広げていたのは呪文書。
「カナンから、『すばしっこい(ヤツ)に効果的な魔法はないか』と聞かれたんだ」
「禁足系のやつは?」
「かける前に逃げられてしまうらしい。相手に影響を及ぼす魔法は、一概に詠誦
がやたら長いからな」
生憎と自分の場合は、トキがこの上なく素早いおかげで、そういう事態に陥った
事はないが。
「何ならトキを貸そうかとも言ったんだが、流石に断られた」
「当たり前」
仕事は原則としてリーパーとそのパートナーの二人一組だ。
例外も無くはないが、それでも上層部からの命令という形になる。個人レベルで
どうこう出来る問題ではない。
「空間系は?あれならそこそこ短いのもあった気がする」
「遮断(ブロック)隔離(アイソレート)、あるいは循環(ループ)・・・か」
トキの指摘に、ツキハが瞬時に該当するものを書き出す。
「それだけきっちり呪文覚えてるんだから、魔法使えばいいのに」
「面倒」
即答したツキハに、トキはもはや何も言わなかった。
その気持ちが分からなくもないからだ。
この場合の面倒は、『魔法を使うのが面倒』なわけではない。


『呪文を唱えるのが面倒』


なのだ。

ツキハは、実はかなりの魔法の使い手だ。
オールラウンドだが、中でも評価が高いのが戦闘系の魔法で、このあたり、彼の
性格を実に如実に現しているといえる。
・・・・しかしながら、根っからの面倒くさがりが生じて、滅多に使うことは無
い。


――――――使わなくても勝てる、というのが彼の言い分だが。










「・・・と、こんなもんか」
トキが四つ目の林檎を食べ終わる頃、どうやら調べ終わったらしいツキハが、メ
モ用紙を片手に立ち上がった。
そのままバルコニーへと出ると、あいている手の指を口元へと添える。


ピィィ――――――――――――・・・・・


高く鋭い指笛が長く響いて辺りに響く。
暫くすると、一つの羽音がこちらへと近づいてきた。
二度大きく羽ばたいて静かにバルコニーの手すりに止まったその鳥は、青灰色の
羽毛に鳩ほどの大きさをしており、白い首輪をつけていた。
「これをカナンに」
ツキハがメモを差し出すと、その鳥はメモ用紙をくわえ、すぐさま飛び立って行
った。
「・・・・・さすが伝令鳥。仕事が早いな」
「早くなかったら使えないだろ」
トキが冷静にツッコミを入れる。
が、それをあっさりと聞き流したツキハは、悠々と部屋へと戻っていった。










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