《 止めよ 留めよ 暗黙の禁忌 無言の束縛
   その力強大なものにして異なるもの その力強悪なものにして害なすもの
   止めよ 留めよ 我が名の元に  その力を拒絶する  禁令(ファビッド)!》




キン…ッ と、大気に波紋が広がるような音がして、魔法が辺りへと広がった。
ツキハの詠唱が完成すると同時に、トキが敏速に霊の退路を塞ぐ。
鎌に仄かな燐光が灯り、ツキハは鎌を右手で握りなおすと、対象めがけ一気に振
り下ろした。

バチィッ

「!?」
「な・・・っ!」
振り下ろした刃は、通常ならばそのまま霊に突き刺さり、魂魄と核を切り離す。
だが今、ツキハが振り下ろした刃は、到達する既の事で派手な音を立てて弾かれ
た。
力同士の衝突による余波によって、パチパチと音を立てているのは、霊の周りを
囲むように張り巡らされていた障壁。
障壁と言っても、自分たちが使うような薄い膜状のものではなく、雷を網のよう
に編んで作られた金網のようなもの。
バサリと一度大きく羽ばたいて、ツキハは弾き飛ばされた体を立て直す。
「くそ・・・、雷は封じた筈・・・」
「ツキハ!後ろ!!」
「・・・!」
疑問を口にするや否や、トキの叫びが耳を突く。
だが、後ろを振り向くよりも早く、右腕に激痛が走った。

「つっ・・・・・!」
取り落としかけた鎌を、意識的に強く握ることで何とか保つ。
左手で傷口を押さえると、生温かい、ぬるりとした感触を感じた。
「ツキハ!」
心配そうな声音でありながらもこちらへと飛んでこないのは、トキが自分の役割
を自覚しているからだ。
今トキが動けば、確実に霊は逃げるだろう。
こんなモノ、早々逃がす訳にはいかない。
ツキハは視線で大丈夫だと告げると、ソレを見上げた。
「・・・・まさか、もう一匹いたなんてな」
口角だけを吊り上げてみる。
嘲笑と取れなくもないが、彼はそこまで矜持が高いわけではない。
けれど、やりにくくなったのは事実だ。
同時に同じ魔法を別の対象には使えない。
攻撃魔法ならまだしも、特殊魔法では不可能だ。
「しかも、この腕だし・・・・」
利き腕をやられた以上、捕獲をするのは難しいだろう。



「トキ!烙印撃てるか!?」
「・・・・やってみる」
スピードは若干トキの方が早い。
鎌を出したトキは、自分の体より大きいそれで、素早く二匹の黒い動物霊を切り
つけた。
ごく小さな、決して致命傷にはならない、擦り傷程度の小さな傷。
しかし、烙印の名に相応しい死の宣告となるそれに、ツキハは僅かに目を細める
と左手の鎌を握り直し、くるりと回して、柄の先を突きつけるように刃を水平に
置いて構えた。




《 我 願うは(あか)き炎 全てを無に帰す天上の劫火
   我 願うは(くろ)き炎 全てを無と成す地獄の業火
   変幻自在 千変万化 形を持ちて形無きもの 
   燃え立ちて消去せよ  我が名の元に この力を行使する (ブレイズ)!》




ツキハの周囲を取り囲むようにして炎が現れる。
風を孕んで大きくうねるそれは、鮮やかな赤から深緋までの色を持ち、先程の詠
唱をそのまま体現していた。
熱に焙られ、ツキハの白い肌が赤味を増し、紅く見える白い髪が揺れる。
「いけ!」
鎌を薙ぎ命じると、一度大きく膨らんだあと、二匹の炎蛇がそれぞれ霊へと真っ
直ぐに向かっていく。
向かってくる炎蛇を認めた霊は、グル…と低く唸り声を上げ、当然のごとくそれ
を避けようと動いた。
だが。
「ムダだ」
霊が動くのに合わせ、炎蛇も動く。
どんなに逃げても、炎蛇は霊を追うことを止めはしない。
「この炎蛇は、お前たちに付けられた烙印を追う。烙印を付けられた時点で、お
前たちに逃げ場は無い」
言葉が分かるとは思えないが、霊達が忌々しげにツキハを睨み、唸り声を上げる。
ツキハは口元に僅かに笑みを刷いたまま、表情を崩さない。
雷で打ち払おうとするも、定まった形を持たない炎はすぐに再生し、攻撃は全く
意味を成さず。
ツキハを攻撃しようとしても、追いかけてくる炎蛇が邪魔になり集中できないら
しい。
暫くの追いかけっこの後、炎蛇が霊に絡みつきその動きを封じる。

《ウヮンテ》

ツキハが端然と宣言すると、二匹の霊は一瞬にして燃え尽きた。
その場には、残滓すら残らない。










「終わり?いいの?消して」
鎌を仕舞ったトキが、今更とも言える台詞を口にしながら飛んでくる。
「いいだろ。腕一本で十分割に合わない」
こちらも鎌を仕舞い、ツキハが呆れたように返しながら一息つく。

その時。










ドスッ


「―――――っ!!」
「ツキハ!!」
飛来した一条の閃光。
視認するよりも早く、光はツキハの右翼を貫いた。
羽根が舞い、一瞬遅れて激痛が一気に体中を駆け巡る。
傷ついた翼が体を支えきれる筈もなく、ツキハは重力に引かれ落下していった。

「ツキハ――っ!」

泣きそうなトキの悲鳴が、遠い。
痛みに歪む視界の中でツキハは、太陽を背に誰かが立っているのを見たような気
がした。









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